大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和58年(う)536号 判決

所論は,要するに,被告人は原判示の所得を秘匿したことも,脱税の犯意をもったこともないのに,被告人が脱税の犯意をもって売上を除外し簿外預金を設定する等の方法により所得を秘匿し,虚偽の過少申告をした旨認定した原決決には,訴訟手続の法令違反(事実認定に際しての経験則違反等)及び事実の誤認があり,これらは判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。

そこで,調査すると,関係各証拠を総合すれば,被告人は,昭和41年当時原判示の場所(現在の町名東京都新宿区歌舞伎町2丁目)に鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階付6階建の建物を所有し,その地上部分を使用して,新宿千山閣の屋号で朝鮮料理専門の飲食業を営み,同建物の地下を他人に賃貸していたこと,被告人は,新宿千山閣の営業に関する会計帳簿を十分には整備していなかったものの,専任の会計係を含む従業員に,売上げについては客の注文配膳支払いの過程を通じて御売上計算書(売上伝票)を,現金支出については出金伝票を作成させ,現金出納帳にも記載させる一方,毎日の料理飲食税込み売上額・同税額・小口現金支出額・差引現金残額を集計させ,伝票に添えて提出された現金有高と売掛金関係書類とともにその日又は次の日に自分で確認したうえ,数口の預金口座に預金させ,また自己の印鑑を所持し,仕入れ等の支払いのため小切手・約束手形を振出していて,売上げ・支払いを直接に管理していたこと,また,被告人は,会計係に月別の売上集計表,買掛金一覧表,損益計算書を作成させ,計数上の営業実態を把握し,常に実際所得額の概要を認識していたこと,建物地下の賃貸及びこれに関連した造作設備等の取得・譲渡についても被告人が直接関与していたことが認められるうえ,他面で,酒類・肉等大口の仕入れについては,継続して,例えば,実際額の三分の一等の割合で納入先を仮名にして納品させ,売上額算定に連動し易い仕入額の一部を秘匿したこと,売上金も自己の日本名名義の口座のほか弟木村吉夫(李淳碩)名義や従業員等の名義のいわゆる簿外預金口座に預金し,仮名納入先の仕入れの支払いには右簿外預金口座を利用していたことが認められる。しかも,被告人は,別に売上額・仕入額を減縮した売上集計表・買掛金一覧表を作成させ,減縮売上額に照応する売上伝票のみを整理保存し,本件確定申告に先立ち,減縮した売上額・仕入額を記載した昭和41年分損益計算書メモ(当庁昭和58年押第171号の符11号,以下符号のみで表示)を作成し,本件確定申告に際しては,事業所得・不動産所得についてそれらの収入・必要経費を全く記載せず,所得金額のみを実際額よりも著しく少ない金額で記載した所得税確定申告書を所轄税務署長に提出したこと,右確定申告書には前記造作設備等資産の譲渡にかかる譲渡所得が脱漏していたことも認めることができる。これらの諸事実に被告人が大学中退の学歴を有することを併せ考えるならば,被告人が所得税をほ脱する意図で右のようないわゆる簿外預金の設定や売上除外等の不正の行為をし,真実の所得額より著しく少額の金額であるとの認識をもちつつ,ことさらに本件過少申告をしたと認めざるを得ないから,被告人に脱税の犯意及び不正の行為があったとした原判決の認定は,相当としてこれを是認することができる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!